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長野地方裁判所 昭和37年(行)3号 判決

原告 島田亀吉

被告 中野労働基準監督署長

訴訟代理人 岩佐善己 外五名

主文

被告が昭和三五年一一月七日原告に対してした労働者災害補償保険法にもとづく遺族補償費および葬祭料を支給しないという処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

原告は主文同旨、被告は請求棄却、訴訟費用原告負担の各判決。

第二、原告の請求原因

一、訴外北信産業株式会社(以下会社という)は長野県下水内郡栄村に主たる事務所を有し立木伐採、伐木運搬を主たる事業とする労働者災害補償保険法第三条第一項第二号(ハ)の強制適用事業に該当する会社であり、原告の三男亡島田福久(以下被災者という)はトラツク運転手として昭和三四年四月から同社に雇われていたものであるが、被災者は昭和三五年一〇月二六日午前七時三〇分頃、同村秋山郷切明の中津川国有林一三林班伐採現場にある伐木を搬出するため同現場に向つて出発し、同村秋山郷和山にある会社の飯場から前方約二五〇メートルの地点、同村大字堺字泥の木平一七、八七九番地の二中津川林道上において右トラツクから転落し、同トラツクの左後車輪に轢圧され脳底骨折により死亡した。原告は労働者災害補償保険法第一五条第一項の遺族であるから同年一一月七日同法に基き被告に対し遺族補償費および葬祭料を請求したところ、被告は同年一二月一五日被災者の死亡は業務上の事由にもとづくものでないとの理由でこれを支給しないという処分をした。これに対し、原告は翌三六年二月一五日に長野労働者災害補償保険審査官に対して審査の請求をしたが、同審査官は同年五月二八日前同様の理由で右請求を棄却する決定をした。原告は同年七月二四日右決定に対しても長野労働者災害補償保険審査会に対し再審査の請求をしたが、同審査会も翌三七年四月三〇日同様の理由で右請求を棄却する裁決をした。

二、しかし、被災者の右死亡は以下のとおり業務上生じたものであつて、これと異る判断にたつ被告の前記処分は違法である。

(1)  当日、被災者は運転助手広瀬充男、同広瀬一已を同乗させて現場に向い、前記林道上小赤沢地籍において右広瀬充男と運転を交替し荷台において休養したが前記和山の会社飯場においては荷台より右二名の助手を指揮して荷台にあつた飯米三俵を右飯場に搬入させた。右充男はここにおいて、広瀬一已と運転を交替したが、被災者はその出発の際も荷台から右一已を指揮し対向車の交替をなさしめた。本件事故はその直後に発生したものである。

(2)  被災者はトラツク運転手であつたが運転作業のほか荷台の積荷の積みおろし作業もその業務に含まれている。前記のとおり被災者は現に荷台の米三俵を助手にかつがせてこれを飯場に搬入させる作業に従事しており、本件事故は被災者の右積荷の積みおろし作業の待機中に生じたものである。

(3)  仮に被災者が運転作業に専念すべきであつて荷台の作業がないとしても、被災者が同乗の助手二名と運転を交代することを会社は黙示的に承認していた。従つて本件事故発生当時被災者は右運転業務の待機中であつたものである。このことは、同乗の助手広瀬充男、広瀬一已は大型自動車の運転免許試験を受験するため事故発生現場附近の林道或いは燃料補給の際などには運転練習をしばしば行つており、その後広瀬充男は右試験に合格しており事故発生当時すでに相当の運転技術があつたこと、事故現場附近は人跡稀な僻地であつて、その林道はわずかに国有林伐木を搬出するためのトラツクが通行する程度であることからうかがうことができる。

(4)  仮に右黙示の承認が認められないとしても、被災者は極度に疲労しており同乗の助手二名と運転を交替するにつき緊急やむを得ない事情があつた。従つて本件事故発生当時同人は運転業務の待機中と認められる。すなわち、被災者は事故当時二四才の青年であつたが、仕事の後時々心臓の鼓動が激しくなつたり、昭和三四年に負傷した左足が痛むことがあつた。また、被災者の一日の労働時間は形式上は八時間であつたが、実際上本件事故発生当時は冬期をひかえて一〇数時間であつた。たまたま本件事故発生の前日同人は会社の命令で午前七時三〇分頃国鉄飯山線森宮野原駅前で米、野菜を積み午前九時頃湯沢温泉に向けて出発し、湯沢温泉において雨中ずぶぬれとなつて作業した後午後五時頃同所から森宮野原駅に向けて帰路につき、午後一〇時頃森宮野原駅に帰着している。そして翌日の仕事のためトラツクの燃料補給などの準備をして午後一一時頃帰宅し、翌日午前六時三〇分頃自宅を出発し本件事故現場に向つたのである。

(5)  また、被災者は助手広瀬一已と運転を交代するため荷台から運転台にもどろうとして荷台の縁かアングルにつかまつてぶらさがつた際進行中のトラツクの振動で転落し左後輪にひかれて死亡したものである。従つて、本件事故は運転業務に従事しようとした際発生したものである。このことは、被災者がうつ伏せになつて後輪にひかれていること、両ひざに軽度の擦過傷があり、右足首外側くるぶしに表皮剥離があること、右ひじ外側に表皮剥離と軽度の皮下出血、右手掌下部右寄りに長さ約一センチ、深さ三ミリの挫創があつたほか右薬指第一、第二関接間背部にわずかの擦過傷があることからうかがうことができる。

三、よつて原告は被告のなした処分の取消を求める。

第三、被告の答弁

一、請求原因一、の事実は認め、同二、の主張は争う。

原告は被災者の死亡が業務上の災害によるものであると主張するが被災者は会社のトラツク運転専従者として雇われ、本件事故当日も自動車運転の作業に従事すべきであるにもかかわらず目的地に向う途中勝手に右運転作業を運転資格をもたない同乗助手二名にまかせ、しかも右助手の近くに位置して適切な指示を与え又安全な操作を監視すべきであるのにこれらの措置をせずに運転作業を放棄、離脱した状態において本件事故が発生したものであるから業務上の災害とは認められない。

二、(1) 同二、の(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実は否認する。

被災者は会社のため立木の伐採現場から伐木を搬出するトラツクの運転手として運転作業に専従的にあつたものである。このことは伐木の積みおろしのために自動車運転資格をもたない助手二名を右作業員として同乗させており、また目的土場には更に専門の積荷人夫三名位を常置し土場における積荷の整理に当りいやしくも運転専従者に過度の労力のかからないように措置していることから明かである。

(3) 同(3)の事実中、広瀬充男がその後原告主張の試験に合格したことは認め広瀬充男、広瀬一已が原告主張のように運転練習をしていたことは知らない、その他の事実は否認する。

会社は被災者が同乗の助手二名と運転を交代することを堅く禁止していたにもかかわらず勝手に運転作業から離脱したものである。このことは同乗の助手二名が運転免許をもたないものであつて運転交代要員として予定されていないものだからである。

(4) 同(4)の事実中、被災者が事故当時二四才の青年であつたことは認めるが、被災者が当事運転を交替するに緊急やむを得ない事情があつたとの点は否認する。その他の事実は知らない。

被災者は当時健康な働き盛りの青年であり、本件事故発生の前日における被災者の作業は特に強度のものでなかつた。本件事故発生当日における被災者の作業はその性質、行程からみて慣行的態様のものであり、被災者は右当日会社から小赤沢に至る二五キロを平常に運転し、同地点で広瀬充男と運転を交代したとき疲労のため運転を継続できないという趣旨の対話も様子もみられず、更に会社飯場附近で停車したときも疲労を回復するため休養するとか飲料水、薬品を求める処置をとつていない。これらのことからすれば同人が当時極度に疲労していなかつたことは明かである。

(5) 同(5)の事実中、被災者の受傷の部位、程度が原告主張のとおりであることは認めるが、その他の事実は知らない。

しかし、本件事故が発生した当時被災者が運転業務に従事しようとしていたものとはいい難い。事故発生現場附近の地理を熟知している被災者が飯場の停車地を出発した直後わずか二五〇米の地点に来て目的地である切明の伐採現場までわずか二、三キロしか残されていない距離を交代することは考えられないことであり、運転台に座つていた助手二名に対し被災者から運転交代の意思が伝達されていない。そして、もし運転交替の意思があつたならば右飯場で確実安全に交替したはずであることを考え合せれば原告の主張が維持し難いことは明かである。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。原告は被災者の死亡が業務上生じたものであると主張し、これと異る見解に立つ本件処分の取消を求めるので、以下その点について審案するのに、請求原因第二項(1)の事実は当事者間に争いがなく、その他の事情については成立に争いのない甲第一ないし第六号証、乙第一ないし第七号証に証人広瀬一己、同広瀬充男、同広瀬治夫、同広瀬豊勝、同伊藤英雄の各証言に検証の結果を綜合判断し、次項記載の事実を認めることができる。

二、本件事故当日被災者が最終目的地とした秋山郷切明の中津川国有林一三林班伐採場は栄村大字北信の会社事務所より二級国道一一七号線を約一〇キロメートル西進し、大割野からほぼ中津川の渓谷に沿つて南下する通称中津川林道を約三三・五キロメートル登りつめた地点にあり、右林道は巾員約四メートルの非舗装道路で渓流に沿い所により曲折登り坂も多いが、路面は山間部の道路としてはかなり良好で、時折材木運搬のトラツクが往来するほか交通は極めて稀である。沿道には小部落が点在するが、奥地には山林関係の飯場事務所等が点在するほか人家はなく公の交通機関もないため、往復のトラツクが山間部へ通う人夫や託送荷物を便乗させるのを常とした。また、この作業に従事する運転助手には、将来運転免許をとるためトラツクの運転練習を希望する者が多く、特に会社の中津川飯場附近においては交通量および地形上から危険度も比較的低く、かつ警察当局の取締りも行き届かないことから、既に或る程度運転技術を修得した助手が行きの空車を運転することが通常のこととして行われ、右飯場の者達は皆この事情を諒知していた。被災者はトラツクを運転しこのような環境の下に山間の材木伐採場に至り、材木を積載してこれを会社の貯木場まで運搬することをその職務としていたものであるが、本件事故当日も、いつもと同様会社事務所より自家用飯米三俵その他一般からの依頼品を自己の運転するトラツクの荷台に積載し、現場附近へ赴く客三名を荷台に便乗させて出発し大割野から中津川林道に入り約二三キロメートルの小赤沢地籍までこれを運転して行つたが、同所において若干の荷物をおろすと同乗の助手広瀬充男に対して「交替だから頼むぞ」と簡単な合図をして自らは荷台に上つた。右広瀬充男は運転免許を有しなかつたが、昭和三四年春頃から運転助手として会社に入社し翌三五年春から被災者と組んでしばしばこの地へ材木搬出作業に来ており、かねてから運転免許の取得を希望しこの附近では長期間にわたつて運転練習を重ねていたので、被災者の右合図を受けて直ちに運転に着手し、同所より約五キロメートルの間右トラツクを運転し会社の中津川飯場に到達した。同所附近で便乗の客は皆下車し、被災者は飯場において荷台より荷下しを指揮し、前記請求原因第二項(1)のとおり荷物を飯場に搬入させた。その後再び同所を出発するに当り、右充男のすすめにより同乗の助手広瀬一已がトラツクの運転を交替した。右一已も運転免許は有しなかつたが、昭和三三年よりトラツク助手を始め翌三四年四月会社に入社し、他の運転手としばしばこの地へ来て継続的に運転の練習をして来ており、被災者とは事故当日の三日前から組んで同所にも来たことがあつたので、被災者は右一已の運転を黙認してその運転を同人に委ねた。この出発に当り、先方に砂利トラツクの来るのが見られたが、その停車位置では交替が困難であつたところ、被災者は荷台のうえから一已を指揮してトラツクを飯場より前方約一〇〇メートルの地点に誘導して交替をすませ、同所から充男を助手台に乗せて出発した。ところが、同所を出発して前方約二〇〇メートル、昇り勾配約八度、約四〇度のゆるやかな右折地点を右トラツクが時速約二〇キロメートルの速度で進行中、被災者は右トラツクの荷台から進行方向に向い左側へ転落し、自車の左側後輪に轢圧されて死亡した。

以上の事実が認められるのであつて、証人広瀬豊勝、同伊藤英雄の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用せず、他に右認定を左右する証拠はない。

三、ところで、労働者災害補償保険法の保険する遺族補償費および葬祭料は同法第一二条第一項第四・五号、第二項の規定により、労働基準法第七九、八〇条に定める災害補償の事由すなわち労働者が業務上死亡したことによるものであることを要するところ、右にいう「業務上」とは、労働基準法が労働者の災害補償責任を個々の使用者に負担させている法のたてまえからすれば、その災害が労働者の業務遂行中に生じたものでかつその業務と災害との間に相当因果関係が存することを要するものと解するのを相当とする。そして右にいう業務遂行性とは労働基準法が使用者の右災害補償責任のために使用者の過失を要件とせず、労働者の死亡に当つては労働者の重過失をも除外事由としていないことおよび右両法が労働者を業務上の災害から保護しようとしている目的に鑑れば、単に労働者が本来の職務に専念している場合のみならず、一般に労働者が労働契約に基き事業主の支配下にあることを意味するものと解することができる。従つて、これを具体的に考えれば、当該労働関係においてその労働者に予定された時間的場所的労務環境において本来の職務と密接な関係を有する行為を遂行している場合をも含むものと解すべく、更に本来の職務の一部を放棄してもなお前記労務環境の下でその余の職務を遂行しているものと認められる限りなお業務遂行性を失わないものと解するのが相当である。そして、労働者の職務行為自体の認定も、契約および法令の規定に従つてこれを狭く厳格に解すべきではなく、その労働関係の実際からみて、その労働者が自己の与えられた労務環境の中で使用者の業務遂行のために日頃行つている現実の状態においてこれを把握すべきものである。

四、本件においてこれをみると、被災者の本来の業務は単に抽象的なトラツク運転行為だけではなく、前記認定の如き山間僻地の材木伐採場にトラツクを運転して行き、ここで材木を積載し、無事会社の貯木場までこれを運搬することの全体であり、その過程のうちで右目的に向けられた被災者の行動はすべてこれを業務遂行中の行為というを妨げない。なるほど、自動車の無免許運転は如何なる場合も厳にこれを禁止すべきことは論をまたないが、これは道路交通の安全という取締り目的から言えることであつて、この法令違反が直ちに一切の業務遂行行為を無にするものとは解されない。当日そのトラツクには同人しか運転有資格者がいなかつたのであるから、当日同人が予定されている本来の職務があくまでトラツクの運転を主体とするものであることは明らかであるけれども、材木を積載し帰途これを安全に会社まで運搬する責任を意識し、トラツクに乗車して前記の如き山間の伐採現場に赴くべく行動している状態にある以上、トラツクの運転そのものを離れたからといつて直ちに本来の業務を一切放棄したものというべきではなく、かかる材木運搬のための行為をも放棄したと認められぬ限り、たとえ法令や使用者の命令に違反することがあつても、なおこれを業務の遂行中ということができる。すなわち、災害の発生した時点において運転手のとつていた行動がどのように評価さるべきかが問題なのであつて、もし運転手が飲酒酩酊して運転を放棄し、あるいはトラツクから下車して私的行為にふけりトラツクの運転を他人のなすに委ね、あるいは到底安全にトラツクを運転操作できないような未知未熟なものに運転を委ねてかえりみないとすれば、現に業務遂行の意思が失われ、また引き続き将来同人の果たすべき職務も無事遂行しえぬことは充分予想されるに至るのであるから、このとき完全に業務を放棄したものというべきであるが、かかる意味の業務放棄行為がない以上、運転行為から離れ無免許者に運転を委ねたこと自体をもつて直ちに業務放棄ということはできない。

五、本件において、被災者がいつもと同じようにトラツクを運転して予定の順路をたどり、小赤沢地籍までこれを運転し、以後も荷台にあつて進行を続け、事故当時目的地に赴く途上にあつたことは前記認定の事実から明らかであるところ、同人に前例の如き業務放棄とみるべき行動があつたか否かをみるに、同人の事故発生直前の行動については目撃者がなく、事後の調査によつても何らその状況を確認しえないことは前掲各証拠から明らかであるから、この間の事情からその瞬間における同人の行動を種々憶測して被災者の意思を推断することは許されない。そこで遡つてこれに先立つ被災者の一連の行動をみると、前記争いのない事実および前記認定の事実によれば、被災者は小赤沢地籍において助手広瀬充男に、次いで飯場附近において助手広瀬一已にそれぞれトラツクの運転を委ねたが、その後荷台にありながらも飯場において荷物の搬入を指揮し、次いで出発に際し対向車との交替を指揮し、引き続いて目的地の材木伐採場に向つていたものであり、また右のような限定された範囲で助手が空車を運転することは当時日常の状態として行われていたことで、当日被災者も慣例的に助手と運転を交替したものと認められる。そして、被災者の交替の前後の行動からすれば、同人は自己の経験および助手の運転技術に照し目的地までの運転を同人に委ねても危険がないと判断していたものとみられ、現に助手が運転したことによつてその運転技術の未熟なことから事故が発生した事実は認められず、本件の事故も助手が運転したことと直接関係があるとは認められない。また更に、被災者が荷積みおよび帰途の運転をも断念したとみるべき特段の事情は何ら認められない。これらの事実から考えるならば、本件事故発生当時同人は運転業務を離れながらも、なお前記の趣旨において本来の業務の一部を遂行中であつたということができ、それさえも放棄していたと認めることは困難である。

そうであるなら、被災者の身体的状態その他運転を交替しなければならない緊急性等の事情を判断するまでもなく、被災者は本件事故当時前記説示の意味における業務遂行中であつたということができ、これに反する被告の主張は採るをえない。

六、次に本件事故と被災者の業務との関係について考えるのに、被災者の業務は前述の如く、トラツクを運転して山間の林道を走行することを主要な内容とするものであるところ、かかる山間の非舗装道路が石塊や地面の凹凸によつてトラツクの振動を誘発し、トラツクの乗り方如何によつては転落等の事故を起しうることは通常予測されうるところである。前記認定の事実からすれば、被災者は本件事故当時その内心の意思および行動の詳細はともかくとして、操行中の自動車の運動と振動により路面に横転し自車の車輪に轢圧されるに至つたことは明らかであつて、その横転に起因する被災者の死亡は被災者の業務と相当因果関係を有するものということができる。もとより、被災者の行動は軽卒のそしりを免れず、その結果については重大な過失のあることは明らかであるが、これらは右業務の起因性の認定を左右するものではない。

七、しからば、被災者の本件事故は、労働者災害補償保険法第一二条、労働基準法第七九、八〇条にいう業務上生じた死亡ということができ、被告は同人の遺族たる原告に対し、同法第一二条第一項第四・五号所定の遺族補償費および葬祭料を支給すべき義務あるものというべく、これと結論を異にし、被告が昭和三五年一一月七日原告に対し右支給をしないとしてなした処分は違法であつてこれを取消すべきである。

よつて、この取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを正当として認容すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中隆 千種秀夫 福永政彦)

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